施主と建築が響き合う──アアルトが生んだ空間の対話を追体験
- 上野 浩太
- 2025年11月21日
- 読了時間: 3分
更新日:2025年12月16日
今回はフィンランド研修第二弾をお届けします。
研修の中で最も印象深かった2つの建築があります。ひとつは、住宅建築としての完成度が非常に高く、しかも建て主との関係性が色濃く反映されていた「マイレア邸」。もうひとつは、医療建築として設計思想と機能性の美しい融合を感じた「パイミオのサナトリウム」です。
まず、マイレア邸です。

ここで何より驚かされたのは、「建築がここまで施主の人生と響き合えるのか」ということでした。施主である女性は、アアルトの仕事に深く共感し、彼を信頼し、要望を明確に伝えながら、設計過程に積極的に関わっていたそうです。その関係性の深さは、家そのものにも現れていて、ただ“施主の希望が反映されている”というレベルではなく、“施主の人格が建築として形になっている”と感じられるほどでした。

また、この住宅では家具の役割にも目を見張るものがありました。実際にアアルトが設計した家具が配置されていたのですが、ただデザイン性が高いというだけでなく、空間全体との調和、動線の導線、視線の抜けなど、あらゆる要素と関係しながら存在していることに驚かされました。


一方、パイミオのサナトリウムでは、「空間が人の回復を支える」という思想が、徹底的に実践されていました。色彩設計も明るすぎず、でも暗くもない“ちょうどいい色”が壁や天井、床に使われていて、歩いているだけで安心感が得られるような、そんな配慮が随所にありました。

特に印象的だったのは、病室の天井の色。横になって過ごす患者の視点で見える天井が、穏やかなパステルカラーで塗られており、「ここで過ごす人の気持ち」が設計の上で大切にされていることがよく伝わってきました。
また、私たちが実際に歩いた時に感じた「移動のしやすさ」も印象的でした。階段の高さや踊り場の広さ、手すりの位置など、身体感覚としてスムーズに移動できる工夫がありました。
さらに、光の扱い方にもアアルトのこだわりが垣間見えました。ただ光を入れるのではなく、「影を設計する」という考え方です。実際に現地を訪れた時に窓から光が入ってくる時間があったのですが、そこにいた全員がその空間の綺麗さに感動していました。
この2つの建物から感じたのは、設計とは単なる「機能と形」ではなく、「人と空間の関係性を丁寧に紡ぐこと」だということです。きっとこれからの仕事の中でも、設計に深みと説得力を与えてくれるはずです。
どちらの建築にも、“設計者だけの思い”ではなく、“使う人との対話”がありました。それが、長く愛される建物の秘密なのかもしれません。今の自分たちにできることはまだ限られているかもしれませんが、その姿勢だけは、これからも大切にしていきたいと思わされる体験でした。

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